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 2010年5月13日更新

ポートレート『フリッツ・ヴンダーリヒ』
〜ドイツの天才テノール歌手の半生を描いたドキュメンタリー〜

2010年3月31日ケーブルTVクラシカジャパンにて鑑賞


『夭逝したオペラ界の“ロックスター”』


 35歳の若さで死ぬミュージシャンといえば、普通、ロックかジャズの人だ。
 ヴンダーリヒの半生をみても、まるでロックスターのサクセスストーリーのようだ。音楽でお金を稼ぐ生活がつづく貧しい少年時代、そして少ないチャンスを活かしてわずか10年ほどで国際スターへと登り詰めた直後の急死―。小さなバンドで演奏し学費を捻出していた頃の写真を見ると、ハンブルグで下積みをしていた時代のビートルズが思い起こされる。ビートルズはハンブルグでパフォーマーとしての腕を磨いたといわれている。やはり、無垢の聴衆の嘘偽りのない反響は演奏家にとって何よりの糧になるのだろう。ヴンダーリヒはその美声だけではなく、パフォーマーとして優れた演技力を身につけていた。後年テレビ出演するヴンダーリヒにも、若い頃に培った“クソ度胸”といったものが感じられる。俗っぽさギリギリに、“身を挺して”まで観客の期待に答えているのだ。演技の上で“メイクしながら役そのものになりきる”とか“内面から自然に湧き出る”ことを心がけていたという。役柄の内面を追体験して自然な演技をめざすメソッド演技をひとりでに習得していたようなものだ。だがその演技は、実際のところマーロン・ブランドというよりはジーン・ケリーに近い。少々“大げさ”かもしれないが、そのかわり、お芝居にひきつられてわき上がるように始まる歌には、自然と生気が溢れてくる。その生気を生むパワーと集中力の源は自然とのかかわりにもあるという。“静かに水や魚を眺めて自然に浸る”ため、ザルツブルク音楽祭では、カラヤンたちの誘う華やかな夜を離れ、郊外の農場に休息を求めた。こうして彼は、自然の恵みを得た、華やかで美しい天性の声でおおらかに歌いあげる。それは反面、ドイツリートの繊細な表現とは相容れない世界でもある。事実、ドイツリート独唱のリサイタルは大不評であった。ヴンダーリヒは、ドイツリートの伴奏ピアニスト・ギーセンの教えを請う。彼からは“1つの8分音符に2つの16分音符をぴったり入れて”といったような緻密な指導を受けた。その努力は、エジンバラでのリサイタルの成功、そして、今日我々がその恩恵を授かる「詩人の恋」「美しき水車小屋の娘」の録音といった形で実を結ぶ。もちろん、これらはD.F.ディースカウの超精密な表現には及ぶべくもない。これらの録音が伝えるのは、やはり“恋にも似たうっとりした気分”に誘われる永遠の美声のもつ力である。 
  1966年、ヴンダーリヒはメトロポリタン歌劇場デビューという栄光を前に、プレッシャーをかかえていた。“名声を手にしてもそれで終ってしまう” 彼にはわかっていたのだ。モーツァルトと同じ35歳で、ヴンダーリヒは没した。
 ―モーツァルトを「今ならロックスター」と評した日本のロックスターも、“浪花のモーツァルト”も長生きしてるが。





ポートレート『フリッツ・ヴンダーリヒ』
[演目]モーツァルト:歌劇『魔笛』『後宮からの逃走』、ロッシーニ:歌劇『セビリアの理髪師』、ペルゴレージ:歌劇『楽士長』他
[出演]バルバラ・ヴンダーリヒ、ヘルマン・プライ、バルバラ・プライ、クリスタ・ルートヴィヒ他
[監督]トーマス・シュテーラー
[制作]2006年、約1時間

ライフ・アンド・レジェンド [DVD]出演: ヴンダーリヒ(フリッツ)
シューマン:詩人の恋~ ブンダーリヒ(フリッツ)
シューベルト:美しき水車小屋の娘~ ブンダーリヒ(フリッツ)
不滅の声~オペラ・アリア集
モーツァルト:魔笛 全曲
モーツァルト:歌劇「後宮よりの誘拐」 (MORZART DIE ENTFUHRUNG AUS DEM SERAIL) (2CD) [Import CD]
Art of Fritz Wunderlich (Spkg)






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