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 2010年5月4日更新

パーヴォ・ヤルヴィ指揮
ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団演奏会
ベートーベン「交響曲第8番ヘ長調 op.93」

2010年4月10日NHK-BShiにて鑑賞


『ニュー・ウェイヴな青春は恥ずかしいのか?』


 80年代ニュー・ウェイヴ“サウンド”のベートーヴェンを聴けた。
 音楽を形容するのに“サウンド”という言葉に頼るのがさかんになったのは、80年代初頭あたりからだった気がする。当時、ポップミュージックは60〜70年代までに完成の域に達してしまったといわれていた。後の世代のミュージシャンは、残されたCD・レコードのせいで過去の膨大なレガシーとも競わねばならないことになった。商売だから何らかの新たな差別化が必要となる。そこで強調されたのが“サウンド”という切り口なのではないか。例えば、いわゆるニュー・ウェーブ。70年代に深く重く極められたロックミュージックをダンサブルな“サウンド”で解放する、といった感じだろうか。軽いノリの単調なビートは、急ごしらえのようにも聴こえた。今からみればちょっと恥ずかしいくらい。
 クラシックはスコア重視なので“サウンド”の工夫といっても限界がある。演奏芸術としては、すでにバーンスタインたちが“散々に”完成させてしまっていた。カリスマもクライバーで在庫切れ。というわけで好楽家はここ20年ほどの間、古楽器やらピリオド奏法やらのブームでわずかな一時的興奮を感じるくらいであった。
 62年生まれのパーヴォ・ヤルヴィはニュー・ウェイヴ世代。フレッシュなノリと、歌うがごとくニュアンス豊かな“サウンド”で、“ユーロビート調”ベートーヴェンを造り上げた。ティンパニが刻むのはまるで昔はやったシンセドラムで打っていたようなアクセント。映像ビジュアルもお洒落だ。現代ドイツのオペラのように洗練されている。80年代のプロモーションビデオのような時代的先駆性はないが、完成度ははるかに高い。ただし、ロックやニュー・ウェイヴの好きなお友達に薦めるのはやめた方がよい。N響の演奏と比べて天と地ほどの差があるわけではないだろう。ベートーヴェンのスコアに依っていることには違いないのだから。1曲聴くのに30分以上かかるというだけでも“ロック耳”にはけっこう高いハードルである。それでもともかくヤルヴィは、80年代の“ニュー・ウェイヴ・サウンド”をここまで昇華させたのだ。青春の思い出はどこか気恥ずかしいもの。だが、青春から得たものはけっして恥ずかしくはない。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」&第8番 [Hybrid SACD]~ ヤルヴィ(パーヴォ)





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